読んでも絶対に役に立たないメカ講座<その3>――オートマチック限定戦闘機「BMW801 + Kommandogeraet = Fw190」

書いている本人が誰に向けているのかすら不明な講座も、第三回にして微妙にネタが苦しくなってまいりました(^^;; インターネットの海は広く深く、大抵みなさんが詳細に調べている物事が多いものですね。時にはオフラインからも情報を仕入れなければ・・・。


さて、今回は第二次世界大戦中に実用化されていた、AT車のような戦闘機、「Fw190A型」のオートマチック部分「Kommandogeraet」について解説しようかと思います。その道に詳しい人は既知の話なので、軽めにさらっと行ってみます。ネタ元はこちら(リンク切れかも)。NASAの前身のNACAが、捕獲したFw190をテストしたときのレポートとなっています。


まずは背景から。自動車にもAT車MT車で操作の複雑さが違います。飛行機の場合は、平面ではなくて、上下にも動く関係上、その複雑さは車の比ではありません。ざっと挙げるだけでも、以下のようにプロペラの駆動周りを調節する場所があります。

  1. スロットル:車で言う「アクセル」ですね。一人乗りの飛行機の場合は、基本的に左手で操作します。さすがにアクセルは必須です。
  2. プロペラピッチ:車で言う「ギア」です。プロペラを寝かせると燃費のいい高速走行向けのハイギアになり、プロペラを立てると燃費が悪い反面加速のいい戦闘向けのローギアになります。
  3. スーパーチャージャー:車で言う「ターボ」の部分です。飛行機は、空に登ると空気が薄くなるので、空気を何らかの方法で圧縮してエンジンに押し込む必要が出てきます。もちろん、高度に応じて最適に圧縮を調節する必要があります。
  4. 混合気:車で言う「チョーク」というものです。車でチョーク、という物自体が死語になりつつありますが、昔の車は寒い日にはチョークを絞って燃料を濃くしないとエンジンが掛からないことがありました。飛行機は、上空に登ると空気が薄く、寒くなるので、さらに細かく調節する必要があります。
  5. マグネトー:車で言う「進角調節」です。車やバイクを細かくチューニングする人だと、ディストリビュータCDIなるものをいじってエンジンの点火時期を調節して、最高の性能が出るように仕上げますが、まさしくそれと同じ部分です。


更に細かく言うとまだまだありますが、これだけの部分を、まだ飛んで長くない新人さんにちゃんと操作しろ、といっても無茶な話です。殊に、戦闘が始まると、これ全部を操作している暇が無くなるのは想像に難くありません。
今の自動車の場合は、上のような制御をすべてコンピュータに一括して任せています。もちろん、当時もそう出来たらよかったのですが、60年も前に飛行機に乗るような電子計算機は存在しません。そこで作られたのが機械式の自動化機構「Kommandogeraet」です。

これがシステム図[1]ですが、右端にあるレバー一本で、飛行機のパワー調節に関する部分のほとんどがほぼ自動で制御されている恐ろしく巧妙な様子がわかります。実際の制御は、エンジンの出力で油圧を作り出し、その油圧で信号を伝え、かつ実際に各部を動作させるためのパワーとして使用しています。油圧を制御するのは、基本的に「ベローズ」と言われる気圧変化で動くアクチュエータに拠っています。こう書くと簡単に思えますが、コンピュータを作る配線を、全部油圧のラインで作っていると思えば、かなり無茶なことだと想像できるかと思います。
実際、複雑さは半端ではなく、このシステムは重く、量産の初期には故障も少なくは無かったそうです。しかし、Fw190主任設計者のクルト・タンク博士の「戦闘機は誰にでも扱える丈夫な軍馬であるべきだ」という信念により、オートマチック飛行機は作られ続けました。


が、自動化したところで、飛行機の限界性能が上がるわけではありません。特に、ドイツはスーパーチャージャー(もしくはターボチャージャー)の技術がイギリス・アメリカの連合国側に対して遅れをとっており、高高度で十分に機能できるスーパーチャージャーを作ることが出来ませんでした。NACAのテスト結果でも、その傾向を如実に見て取ることが出来ます。

横軸が高度、縦軸が各スロットル(アクセル)位置における燃料消費率です[1]。20000ft=6000mを越えた辺りから、急激に燃料消費率=出力(一概にそうは言えませんが)が落ち込んでいるのが確認できます。これは、ピストン内に送り込む空気の量(エアフロー)を十分に維持できないスーパーチャージャーの限界によるものです。エアフローの限界も、同じような形でレポート内にグラフ化されています。


#己の限界を知りつつ、更に高い高度を平気で飛んで襲い掛かってくる戦闘機や、爆撃機を見ながら、
#パイロットはどういう心境でこれを迎え撃ったのでしょうか。無情なグラフを見ながら、思いを馳せてみました。


[1]M.E.Scharer and A.N.Addie,"Characteristics of the BMW801D2 automatic engine control as determinded from bench tests" , National advisory committee for aeronautics,No.E5D19,1945.