読んでも絶対に役に立たないメカ講座<その1>――下方射出座席

あんまり着目されてない。でも気になりだしたら気になるメカニズム。そんなものをちょっとずつ取り上げて行こうという新機軸(?)です。まず第一回は「下方射出座席」。メインのネタ元は、射出座席の第一人者サイト(何だそれは)、EjectionSiteです。


「脱出」は男のロマンです。あんまり飛行機に詳しくなくとも、戦闘機等には、緊急時に座席ごとバーンと上の方に打ち出して、上空でパラシュートを開く「射出座席」なるものがあることを知っている人も多いと思います。もうちょっと細かい話をすると、西(アメリカ製)のACESIIと、東(ロシア製)のZvezda K-36Dという感じで、こういった現代の射出座席は、高度0、速度0というパラシュートがそのままでは開かない環境下でも、射出によって十分高度を取って安全にパラシュートで着地できる(事になっている)「ゼロ・ゼロ射出座席」になっています。


ところが。上に打ち出すのが基本とも思えるこの射出座席。その昔(一部は今でも)には、機体下向きに射出する「下方射出座席」なるものが存在しました。離陸に失敗した時に射出すると、あまり考えたくない事になるのは想像に難くありません。時に笑い話として語られるこの種の座席、何故作られてるのでしょうか?という問いに対する答えを、日本語のサイトで見つけることが出来なかったので、ちょっと真面目に調べてみました(調べるなよ)


まず、その筋で有名なF-104スターファイター戦闘機の初期型の場合。ここに詳しい記述があります。F-104Aに装備されているStanley B〜C-1というタイプの座席に当たります。細かいメカを解説しだすとキリが無いため、射出手順をリストアップしてみます。

  1. 足を座席の足元にある保護部に自分で収める(B型のみ)
  2. 風で飛ばされないように、手足がストラップで座席に縛り付けられる(C型以降)
  3. パイロットに当たらないように、ばね機構により操縦かんを前に弾き飛ばす
  4. 足が固定された所で、打ち出し機を作動させて座席を下に飛ばす(C-1型では自動化)
  5. 座席と機構的に連動して、機体下の扉が開いて風圧で飛んでいく
  6. パイロットは開いた扉から下へ打ち出される
  7. 2秒後にパラシュートが開き、座席が分離する

※打ち出し機が壊れた場合は、重力に引かれてそのまま座席が下に出てくる


と、なっています。この時代では、打ち出し機の能力が非常に低く、上に打ち出した場合、そのまま背後の垂直尾翼へ風圧で流されて真っ二つに・・・という事になってしまいかねないので下方へ・・・という切実な背景がありました。が、それ以上に※印が気になります。多分、打ち出し機は力が弱いだけじゃなく、良く壊れていたんだろうなあ、と・・・。この時代の射出座席は、「高度を取るため」でなく、「脱出時に自分の機体に当たらないため」に射出していたのです。当然ながら、低空飛行時の脱出は考えられておらず、実際に、テストパイロットで3人が脱出に失敗しているそうです。
C-2という新型タイプからは、打ち出し機の改良によって上方に射出させることが可能になり、安全性が飛躍的に高まっています。日本にかつて納入されていたF-104Jは、これ以降の型になります。


そして次は。ベトナム戦争で活躍したB-52爆撃機の航法士/レーダー士の射出座席。こちらに説明がありますが、英語を読まずとも、図を見れば一目瞭然ですね。胴体の下に座っているから下方へ。という物理的な理由です。


とはいえ、乗っている人も直感的にいい気がしないのか、この下方射出座席は評判が良くなかったそうです。なので、パラシュートを背負って、座席だけ打ち出した後に、開いた口からそのまま飛び降りた人もいたと聞いたことがあります。脱出も楽じゃないですね。


#と、消化不良気味の第一回でした。射出に関しては、脱出カプセル
#なるジャンルもあるのですが、これはまたいずれ(?)