読んでも絶対に役に立たないメカ講座<その4>――ロボット兵器の誤解

今、NHKで「テクノクライシス:危機と戦う2:軍事転用の戦慄・ロボット」なる番組をやっています。民生用部品を転用し、無人化する戦場についての警鐘を鳴らすという番組構成のようです。かつて、SF映画で描かれた「ロボット兵士の反乱」すら起こりかねないという勢いで語られており、演出の妙を感じることができます。


が。NHKが故意に誤解させている節がありますが、ここでいう「無人化」という定義には、この番組で与える印象と現実とは、大きな隔たりがあります。今、無人化が行われている主だった部分は「ナビゲーション」です。つまり、ある点からある点に移動するための運転手の役割のみを担います。


極初期に登場した無人兵器「プレデター」は、空の自動ナビゲーションにより飛び回る偵察機として活躍しました。プレデター自体は小型で長時間滞空、衛星通信による映像のリアルタイム伝送等の新機軸を盛り込んではいるものの、実は無人偵察機自体はそれ程新しい概念ではありません。その昔、高速で敵地深くへ侵入するSR-71ブラックバードと、そこから切り離されてさらに奥地の写真偵察を行うD-21無人偵察機、という組み合わせが試験されたこともありました(失敗には終わりましたが)。空には基本的に障害物が無いため、相応の自立航法装置さえ装備しておけば、ラジコン+α程度の技術で無人機は出来てしまいます。GPSや、データを処理するコンピュータが充実した現在においては、更にその敷居は低くなっています(GPSが実戦で使用できるかどうかは別問題で)。


障害物が存在する陸上のナビゲーションは更に難しく、先述の航法装置に加え、安全なルートの探索、目の前の障害物の回避などといった課題が出てきます。が、番組でも取り上げられていましたが、米国防総省国防高等研究事業局(DARPA)が主催する「グランド・チャレンジ」によって、それらの課題も解消の方向に向かっています。


ただし、これらはあくまでただの「運転手」です。番組では敢えて強調してはいませんが、引金を引くのはあくまでモニタの向こうの人間です。誰が敵で誰が味方か。ぎりぎりの判断を担うのは、未だ機械には荷が重過ぎる話なのです。無人化の効用としては、むしろより接近して敵味方の識別を行うことで、同士討ちの危険を減らせる事の方が大きいのではないでしょうか?モニター越しに敵を狙うという点においては、戦闘機の上からFLIRで照準するのも、プレデターから送られる映像越しに照準するのも、実はさして変わりません。


アメリカがFCSと呼ばれる電子化された戦闘システムに躍起なのは、無人化による省力化、安全化と同時に、味方を全部ID化する事による同士討ちの劇的な削減を目指しているのだそうです。例えば、地上の兵士が不明者に銃で狙いをつけたとき、引き金にかけた指がためらいを感じるか否か。いつ目の前に敵が現れるとも知れない戦場では、その有無が生死の分かれ目になるのだろうな、と。傭兵でもない自分には想像するしかありませんが○| ̄|_


これ程までに進化した無人機群を持つ米軍ですら、未だオサマ・ビン・ラディンを逮捕/殺害するには至っていません。最終的には、人が地上をしらみ潰しに探していくしかない、と同時に敵を直接見分ける前線の兵士が犠牲になっている現状があります。
最終的には、敵かどうかの判断をも、機械に任せたいのだろうと思いますが、人殺しのすべてを、全自動の機械に任せる。その時こそが真に恐ろしい時代の幕開けかもしれない、と思います。


#戦闘機同士の戦いでも、IFF(トランスポンダ)なる代物が古くから存在しますが、
#それが故障したばっかりに、同士討ちの悲劇が発生した例もいくつかあります。
#理論は完璧でも、そう簡単にはいかないようです&簡単に行ったら怖すぎます(^^;;