読んでも絶対に役に立たないメカ講座<その2>――ミサイルを撃ち落せ!〜「ARENA(アレナ)」Active Protection System

おそらく読む人のほとんどは何がなんだか分からない。でも自己満足で続けてしまう講座、第2回です(^^;; さて今回は、自分に向かって飛んでくるミサイルを撃ち落す、まさに某マクロスのようなシステムのお話です。


ミサイルを撃ち落す、というシステム自体は、少し詳しい人であれば艦船に搭載されているCIWS、製品名の例で言うと「ファランクス」等を思いつく方もいるかもしれません。こちらは結構有名なので、敢えてあまり日本語サイトで取り上げられていない、戦車に搭載されているものを取り上げてみました。ネタ元はこちらウクライナドメインなのに、英語で詳細に解説してくれている親切なサイトです。おかげでロシア語と格闘せずに済みました。大感謝。


さて、まずは背景から。戦車はとても厚い装甲で覆われていて、ちょっとした事では破壊されません。が、不審船事件で有名になったRPG-7や、対戦車ミサイル等は、個人でも持ち運べる規模ながら、直撃されて当たり所が悪ければ、貫通して破壊されてしまうという意外な危険性も秘めています。実際、ロシア―チェチェンの紛争において、チェチェンゲリラによって当時最新鋭であったT-80戦車までもがRPG等の待ち伏せ攻撃により、数十両の規模で破壊されています。


対策として、当然装甲を厚くすれば大丈夫です。が、重すぎる戦車は使い物にならない。というわけで、比較的軽いERA(リアクティブアーマー:爆発反応装甲)等を装着するのですが、ERA対策されたタンデムHEAT弾頭による攻撃や、照準器などの脆弱部を狙われると心許ない。そこで考え出されたのが、戦車から離れた所で直接ミサイルを撃ち落すAPS:Active Protection Systemです。最も単純に考えられる解決策ながら、その実現は並ならぬ難しさがあります。今回紹介するのは、比較的古くからAPSを開発してきたロシアの最新世代型にあたる、「ARENA(アレナ:円形闘技場)」APSです。

イラストで見てもらえれば分かるように、砲塔のてっぺんに太い煙突のようなものと、砲塔の回りにぐるっと板状の物が張り付いています。この二つが主にARENAを構成しています。それぞれ、「ミリ波レーダー」と「防御弾カートリッジ」となっています。防御弾カートリッジの様を見るにまさに円形闘技場で、名前の由来が良く分かります。


ミリ波レーダーは、接近するロケット弾やミサイル等を探知・追跡するために用います。高速で迫るミサイルに対応するため、極めて速い処理速度を誇ります。最大探知距離は50m。
防御弾カートリッジは、接近する弾を撃ち落すための弾が格納されています。カートリッジに点火すると、中身が一旦斜め上方に飛び出し、そして斜め下に叩きつけるようにショットガン状の破片を撒き散らし、飛んでくる弾を破壊します。一つのカートリッジが撒き散らす破片の方位は決まっていて、前方から±110°の範囲をカバーするように、ぐるりと複数のカートリッジが配置されている訳です。なお、それぞれのカートリッジがカバーする方位はある程度重なり合っていて、同じ方向から同時に2発弾が迫ってくるような状況下でも、弾切れの危険を減らすように出来ています。


これらを使ってどのように防御するのか、以下にその手順を示します。

  1. 危険地帯に入ったら、戦車長がシステムの電源を入れる
  2. 自己診断が終了したら、そのまま自動戦闘モードに入る(システムの情報は戦車長席にあるパネルに表示される)
  3. ミリ波レーダーが目標探知モードで接近目標を探す
  4. 危険な目標(命中コースにあって、当たると危険な弾)を探知したら、そのままレーダーは追尾モードに切り替わる
  5. 目標を追尾しつつ、目標の速度や接近する角度を分析し、コンピュータに入力する
  6. コンピュータは分析したデータにより、防御弾を打ち出すタイミングを計算する
  7. 防御弾カートリッジに点火
  8. 防御弾は斜め上に打ち出されたあと、ショットガンのように斜め下に広がるように破片を撒き散らす
  9. 破片が当たった弾は、信管が作動して戦車から距離を置いて爆発してしまう
  10. パネル上の情報により、戦車長はどのカートリッジが作動して、どのカートリッジが残っているのかをチェックできる


という感じです。図にするとこのようになります。incoming ATGMが迫ってくる弾、Protective ammoが防御弾です。

目標探知から追尾に移行するのが50m〜25mの間。そして、25m〜0mの間で実際に迎撃することになります。基本的にレーダーとコンピュータが行うのは、「どの防御弾カートリッジを、いつ打ち出すか」を決めるだけです。後はショットガンとしての防御弾の能力に依存します。ただし、探知から迎撃までは0.2〜0.4秒。システムの反応時間はわずか0.01秒と、時間に関しては非常にシビアです。なお、メーカー側が宣伝している特長としては

  • マニュアルモードを使うと、手動で防御弾を発射させられるので、肉薄してくる敵歩兵等に対して、ショットガンとして「攻撃」も出来る
  • 下に叩きつけるように防御弾を撃つ為、危険範囲が20〜30m以内に限定され、味方の歩兵が必要以上に離れる必要がない
  • 戦車が弱いとされる、上方から向かってくる弾も撃ち落すことができる
  • 自戦車に対して「正確」に向かってくる「危険」と判断された目標にしか反応しない
  • 戦車乗員がハッチを開けていると安全装置が働いて作動せず、動作時は外部にある警告灯によって味方の歩兵にちゃんと危険を知らせる
  • 独立したシステムなので、電源さえ供給されたら他の装置と干渉せずにどんな戦車にも装着可能
  • システムは、戦車自体の整備スパンと同じに設定されているので、アレナだけの特別な整備は必要ない


となっています。


・・・・以上が、システムの解説ですが、個人的な感想を。
完全自動で動作するショットガンなだけに、勝手に誤動作したらとんでもない事になるので、非常に安全性に気を使っているのが分かります。煙突のようにそびえ立つ大き目のレーダーも、正確に目標を捉えるために必要であるというのは良く理解できるのですが、折角低く作って、敵から見えにくくしてある戦車の特徴が台無しになっています。
また、レーダーを使っているということは、同時に電波を撒き散らしているということでもあり、敵側に電波探知機があったら、自分の位置をわざわざ敵に教えているようなものです。二重の意味で目立ちまくります。
そして、レーダーの探知が可能なのは、50〜25mのわずか25mの区間。たったその中で、最大マッハ2(つまり音速の2倍)で迫ってくる弾に気づかなければなりません。さらに、残りの25mで撃ち落すのですが、素人目に見ても非常にシビアです。特に防御弾があまり散らばってない上のほうになると、ミサイルの接近タイミングに合わせるのはかなり難しいのでは無いか?と勝手に不安を抱いてみます(^^;; 最近のミサイルは、ほぼ直上から真下に突っ込んでくる代物もあるので、その類には対処できないのではないでしょうか。


かなり否定的な事を書いてしまいましたが、装備されているだけでも、乗っている人にとってはかなり安心感が変わってくるのかもしれませんね。メーカー側も、戦車の商品価値を上げるために、頑張ってこういうオプションを開発しているという経緯もあります。なんだか、戦車の世界も豪華オプション満載の市販車と変わらなくなっているようです。市場経済の厳しさを感じているロシアの姿を、ここに見る気がします(^^;;


#それにしても、ロシア―チェチェンは調べて見れば見るほどまさに泥沼ですね
#兵器は、実際に使われず、あくまで抑止力のお飾りとしてのみ存在していて欲しいものです