読んでも絶対に役に立たないメカ講座<その5>――ホバークラフト1:その概要

同年代以上の人(30代前後)であれば、比較的名前は広く知られているホバークラフト。自分も幼い頃、学研の図鑑「自動車・船」で、水中翼船とともに高速航行で名を馳せるその姿を見て、いつか実物を見てみたいと思ったものです。


高度経済成長期真っ只中だった30〜40年前、十分な道路網・航空網が整備されてなかったこともあり、離れた島(四国含)への往来には、まだまだ連絡船が主流を占めていました。頻繁に行き来するなら、できれば足の速い船がほしい。さらに、人口の少ない離島では十分な港湾設備が整備できないという問題点があり、そこで白羽の矢が立てられたのが「水陸両用」のホバークラフトだったようです。水中翼船も足の速さは同様ですが、当時の水中翼船は固定式の水中翼を備えており、十分な(もしくはそれ以上の深さの)浚渫(しゅんせつ)を行った港湾設備がないと接岸できない、という問題がありました。


このホバークラフト、日本で始めて導入されたのは1967年。熊本は天草にて、有名な「天草五橋」がまだ無かった時代の連絡線として使われたのだそうです。ちなみに、イギリスで実用化の目処をつけたのは1959年。わずかその間8年で、イギリスから技術導入を受けた上で国産化し、さらに商用化したことになります。当時の勢いを感じますね・・・。とはいえ、ホバークラフト自体の仕組みは以下のように非常に単純です。

  1. 地面(水面)と船体との間をゴムスカートで覆い、その中に空気を吹き込む。空気は地面(水面)とゴムスカートの隙間から逃げていく。結果、ほんのちょっとだけ船体が浮き上がる
  2. 浮き上がったら摩擦はほとんど無いに等しいので、プロペラなりスクリューなりで推進して進む


何しろ、発明したChristopher Cockerell卿自身、穴を開けた空き缶にヘヤドライヤーを突っ込んで空気を吹き込んでみて、「これは行ける!」と確信したらしいので、適当な工作でもそれなりに動くことは動くようです(^^;; ともあれ実用化の為の試行錯誤の中で、地上・水上における凹凸に対応するために生まれたのが件の「ゴムスカート」と、Cockerell卿が発明した、空気圧で効果的に船体を押し上げる「モーメントカーテン機構」です。大仰な名前ですが、装置としては何のことは無く、ゴムスカートの中に隙間を埋める詰め物をするだけ、というシンプルイズベストな発明です。これらが決め手になって、実用化まで持って行けたのだとか。最初の試験機「SR-N1」は、見るからにゴムスカートとプロペラのお化けで、申し訳程度に運転席がついてます。こんな小型艇で荒海のドーバー海峡横断を2時間で成功させ、世間を驚かせたそうです。その性能に驚いたのか、勇気に驚いたのかは知る由も無いですが(^^;;;


話を戻して日本では、その後三井造船の手により、「MV-PP5」が開発されました。記録をさかのぼると、1971年頃からの登場のようです。自分も含め、図鑑で見たホバークラフトというのはほぼ間違いなくこれだったはずです。MV-PP5は(比較的)数多く生産されて、宇高連絡船名鉄観光船、大分空港船、鹿児島空港船、大阪−徳島船、八重山観光船、etc...と各所で運行され、まさに全盛期を支えた存在だったようです。
が、1980年代に入ってから、瀬戸大橋を初めとした各道路網、地方空港の整備が進み、連絡船自体の需要が徐々に減少するようになりました。港湾設備が不要といわれたホバークラフトも、実際には頻繁な整備と、その整備を受け持つホバークラフト専用の陸上設備が必要で、普通の船と比べても高くつく存在だったようで、徐々にその数を減らしていきました。


そして、つい先日まで最後に唯一残っていたのが、大分市―大分空港間の高速連絡船「大分ホバーフェリー」でした。ここは陸上にある空港のロビーに直接乗り付けるため、比較的長い陸路を走る必要があり、ホバークラフトがどうしても必要だった路線で、今日まで残っていたのだそうです。この陸路はS字カーブになっており、巨大ホバークラフトのドリフトとして有名になった場所でもあります(^^;; しかしここも、大分駅からのアクセスがネック&陸上道路整備による競争力低下により、経営悪化で昨日2009年10月31日をもって、休止(事実上の廃止)になりました。子供の頃から知っていた、夢のある乗り物だっただけに残念でなりません。これをもって、日本国内におけるホバークラフトの民間運用は完全に終了したことになります。


実は今年の夏休み、幸か不幸か、この廃止を知る由も無い頃ですが、里帰りがてらこのホバークラフトに体験搭乗してきました。次回は上に書いたドリフトを含む写真と、その神業的操縦について語っていく予定です。


#趣味丸出したと、図もろくに無いのにどうしても長文になりますね。ごめんなさいorz
#後でいろいろ追加するかも。